初めての精神科入院

うつになった原因の職場から離れる事ができた。父も母も、そして私も、これでうつが少しでもよくなれば・・・と、期待をしていた。事実、退職してしばらくは調子が良かった。しかし・・・職場から必要とされなくなった。家にお金を入れることもできなくなった。それが、自分にとってプレッシャーとなり、また、「自分は世の中のお荷物だ」と思うようになってしまった。

父は、「急ぐな。時期に『働きたい』と思う日が来る。それまではゆっくり休め」と言ってくれた。だが・・・働く自信はない。でも、社会からは取り残されたくない。その相反した二つの思いが、自分を壊していった。医師に、「酒は辞めること」と言われていたにも関わらず、また酒を飲むようになっていた。

そして、酔うと、雑誌をカッターで切り刻んだりと、訳の解らない行動を起こすようになっていた。雑誌の欠片が散乱した部屋を母が見て、泣いてしまい、父は「お前は俺の手に負えん。入院した方がいい」と言い、今までとは別の病院に連れて行かれた。

そこでの医師は、一通り話を聞いた後、「雑誌を切り刻むぐらいで気が落ち着くなら、いいんじゃないですか」と親に言ったが、父は、「私達もどう対応していいかもう解らないです。正直、私も家内も、疲れ果てています。ある程度まともな思考状態になるまで、入院させてもらえませんか」と答えた。この言葉が、「親にも見離された」と感じた。

「当のあなたはどうなんだい?」と、私に医師は問う。病院に連れてこられるまでは、入院なんてしたくなかった。しかし、父のその言葉を聴いた瞬間、「自分は家にいないほうがいいんだ」そう思い、「自分も入院した方がいいと思います」と答えていた。

医師はわかりました、と答え、「当院は、初めは必ず閉鎖病棟に入院することになっているのですが、いいですか?」と言った。閉鎖病棟って何?と、私が問う前に、父が「息子の為にも、その方がいいと思います」と答えられた。こうして、閉鎖病棟、の意味も解らず、自分は「そこ」に入院することとなった。

閉鎖病棟、とは何か、ということもわからず、ほとんど父の意向で、閉鎖病棟に入院することとなった。「そこ」は、自由など何一つなかった。持ち込むものは全て入院時にチェックされ、常に必要なもの(下着類)以外は全て病棟で管理し、使う時には看護師の承諾を得ないといけない。特に、髭剃りなど、刃物類の持ち込みは厳しかった。

今思えば当たり前なのかもしれないが、ひげを剃るのに看護師に言わなきゃならないのが面倒だった。また、毎日髪のセットもしたいのに、ドライヤーが病棟から貸し出ししか認められない、しかも2個ぐらいしかなく、使用するのに順番待ち、なんて事があり、ホントに何をするにも制限が多かった。

最大の「制限」は、「閉鎖」病棟という意味を考えてみればわかるのだが、病棟の外には一切出られない。外と病棟をつなぐ廊下には、鍵のかかるドアが立ちふさがり、看護師全員が鍵を持ち、必ず施錠していった。売店にも行けず、窓がない為外を眺めることもできず、全ての娯楽や「世間」からシャットアウトされ、何もする事がなく、退屈極まりなかった。

唯一の救いは、薬で意識がボーっとしており、怒りをはじめ、マイナスの感情がほとんどなかったことだ。(プラスの感情もなかったが・・)こんな「閉鎖病棟」の中での生活は、思ったほど長くはならなかった。

10日ぐらいだろうか。入院してから1週間、主治医に「調子はどう?」と聞かれて、「退屈です」と答えると、「あなたは、最初から、特に閉鎖病棟である必要はなかったし、通常の病棟へ戻るかい?」と聞かれて、「お願いします」と答えると、3日ぐらいで普通の病棟に戻ることができた。入院してから10日程で、閉鎖病棟から一般病棟へ移ることができた。

通常の生活には程遠かったが、閉鎖病棟から比べたら天国だった。食事の他に、売店へ行ってお菓子などが買える。私物の管理はほぼ自分で出来る。また、ここでは「部屋の掃除当番」と言うのがあった。閉鎖病棟は、いわば「危険患者の隔離・治療」が主な目的だが、一般病棟は、治療はするが、それ以外に「社会復帰」が目的だ、と主治医は言った。

だから、自分の世話は自分でする。自分の住んでる部屋ぐらいは、自分で掃除する。退職してから、「社会の役に立ってない」とずっと思ってきた自分は、掃除をしているだけでも嬉しかった。そして、一般病棟では、他人のお見舞いも自由に行うことができた。

中学時代の友人が、彼女(今の奥さん)を連れて、見舞いに来てくれた。普通ならなかなか敷居を跨ぎ辛いような、精神科の病院に、わざわざ彼女を連れて。すごく嬉しかった。色々話をして、「退院したら、またマージャンでもしようや!」って言ってくれた。この友人にはすごく感謝している。

ちなみに、今でも交流があり、20年来の親友である。彼の言葉にはとても励まされた。早く元気になって、彼も含めた、友人と一緒に遊びたい。そういう目的が出来た。その日、主治医に「退院したいが、いつ頃になりそうか」と聞いた。すると、「特に問題なさそうだし、来週頭にでも退院するかい?」との返答!!即答し、結局初めての精神科病棟への入院は、3週間程度で終わった。

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